研究課題と実施計画
「課題1 ESBL産生耐性細菌発生に関与する抗菌剤の使用ならびに残留実態の解明」へ
「課題2.保菌者ESBL産生耐性菌の感染発症への関与の解明」へ
「課題3.食材流通過程における抗菌剤・薬剤耐性菌モニタリングシステム」へ
「課題4.ESBL耐性菌の保菌状態の安定性とそれに及ぼす因子解析」へ
「課題5.薬剤耐性菌検査を含む食品安全管理における専門家の育成 」へ
本研究ではESBL産生耐性菌保菌者が著しく増加しているベトナムにおいてESBL耐性細菌発生機構とそれが原因となる感染症の解析、発生に関与する抗菌剤の使用ならびに抗菌剤の残留実態を微生物学的、薬物学的さらには社会・経済的背景を基にした人類学・開発学的視点より研究解明し、これを基盤とした食品検査体制における耐性菌モニタリングシステムの構築を行います。
具体的には、1)ESBL産生耐性細菌発生に関与する抗菌剤の使用ならびに残留実態の解明を微生物学的、薬物学的、人類学・開発学的、保健衛生疫学的観点から取り組む、2)保菌者ESBL産生耐性菌の感染発症への関与の解明を感染症患者分離株との関連で解明する、3)食材流通過程における抗菌剤・薬剤耐性菌モニタリングシステムの構築を行う、4)ESBL耐性菌の保菌状態の安定性とそれに及ぼす各種因子を動物モデルを使用して解明する、5)薬剤耐性菌検査を含む食品安全管理における高度な知見と技能を有した専門家の育成を図ります。これら研究題目の達成により、薬剤耐性菌発生機構の解明と食品管理体制における耐性菌モニタリングシステムの実効性の有る構築が可能となります。
各研究項目に対する実施計画は以下の如くである。
課題1 ESBL産生耐性細菌発生に関与する抗菌剤の使用ならびに残留実態の解明
薬剤濫用と耐性菌発生との関連で以下の2つの仮説の検証を、微生物学的、薬物学的、人類学・開発学的、保健衛生疫学的に行います。
課題2.保菌者ESBL産生耐性菌の感染発症への関与の解明
通常、健常者保菌ESBL産生耐性菌は大腸菌やKlebsiellaなどであり、その保菌自体は問題とはなりません。しかし、ESBL産生大腸菌などが尿路や血中などへ侵入すると難治性の感染症を惹起し治療上大きな問題となります。また、健常者ESBL耐性菌の耐性遺伝子プラスミドがSalmonellaなどの病原菌へ水平伝播を起こす可能性が指摘されており、実験的にも他の菌種への移行が確認されているが動物実験の域を出ておらずヒトの感染症での関わりは不明です。このような背景から、保菌者の有するESBL産生菌が当該地域における薬剤耐性菌による感染症へ実際どのように関わっているかを解析します。
課題3.食材流通過程における抗菌剤・薬剤耐性菌モニタリングシステム
畜水産における抗菌剤使用とそれに起因する耐性菌の発生ならびに拡散を食材流通過程に沿ってモニターするべく、モデル地域での市場とそこへ納入する畜水産食材加工場さらには畜水産現場を含めた流通生産販売ラインを選定し、食品検査体制の一環としての耐性菌モニタリングシステムを構築します。
課題4.ESBL耐性菌の保菌状態の安定性とそれに及ぼす因子解析
薬剤耐性菌の保菌状態の安定性(一旦耐性菌を保菌するとどの程度その状態が維持されるか)とそれに及ぼす諸因子(抗菌剤に定期的に曝される必要が有るか、どのような抗菌剤がESBL耐性菌の保持に有効か等)の解析を実験動物(マウス)を用いて検討します。
課題5.薬剤耐性菌検査を含む食品安全管理における専門家の育成
本研究の遂行を通してベトナム人食品安全管理専門家の育成を図ります。ベトナム人専門家の育成は、本研究の目的であるベトナムにおける薬剤耐性菌の発生と拡散の抑圧を具体化するものとしてモニタリングシステムが有り、これを運用するために必須であります。高度な専門化の育成は本事業の研究成果を実効化し継続させる上で極めて重要です。