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国際共同研究の目的と成果目標

ベトナムは、日本の約8割に相当する国土、人口を有し、各種の社会インフラや制度設計ならびに運用が周辺諸国と同様近年の顕著な近代化に必ずしも追いついていない状況が指摘されています。

特に、日本との交易増大を背景とした農水産物輸出増加はベトナムにおける大きな輸出産業となりつつあり、安全・良質な農水産物食材の供給は交易に限らずベトナムにおいて重要な課題となってきました。

例えば、アジアはエビの世界養殖生産量の9割を生産するが、その中でベトナムは日本を最大の輸出先(日本への全輸出の21%:2005年)とする世界的な生産輸出国としての性格を強めています。

このような背景の下、農水産現場での生産性向上のための集約化と大規模化の進行は「食の安全性確保」の観点から種々の課題を含むことになります。薬剤耐性菌の観点からは、集約化・大規模化に伴う抗菌剤の不適切・過度な使用(高密度化での養殖における病気予防や発育促進目的での日常的使用)により選択された耐性菌が食品を介してヒトに伝播し、ヒトの細菌感染症の治療を困難にする潜在的な危険性が指摘されており、近年、公衆衛生や家畜衛生関連の国際機関などにおいて、緊急課題として取り上げられるようになっています。 

日本では、畜産分野におけるモニタリング調査が1999年から本格的に開始され、2003年からは、厚生労働科研「食の安心安全確保推進研究」において、家畜、食肉を中心とする食品およびヒトの食中毒菌の薬剤耐性の動向調査が行われています。しかし、これら先進国の事例でも、家畜に見出される耐性菌とヒトのそれとの関連は、未だ、明らかになっているとは言えません。

一方、途上国においては、耐性菌に関する法制度、モニタリング、リスクコミュニケーションは、いずれも不充分なままである。ベトナムも例外ではなく、施策を構築すべく努力を始めているところです。 

本研究課題は、研究代表者によるアジアでの薬剤耐性菌研究、大阪大学微生物病研究所による腸管感染症研究、大阪大学グローバルコラボレーション(GLOCOL)ならびに大阪大学薬学研究科によるベトナムでの食に関わる先行研究を基盤としており、ベトナム保健省ならびに国立栄養院からの上記観点を踏まえた共同研究依頼に応えるものです。

日本側は、微生物学、薬学、人類学、開発学研究者に加え、感染症学、保健衛生学、食品科学ならびに疫学領域研究者を組織し、「薬剤耐性細菌発生機構の解明と食品管理における耐性菌モニタリングシステムの開発」研究を行うもので、ベトナム側と共同で開発する食品検査体制における薬剤耐性菌のモニタリングシステムとその実効性検証は本研究プロジェクトの具体的成果の1つとなります。

また、当該領域における本研究プロジェクトを介した専門家の育成は、大阪大学ならびに協同研究機関の有する広範囲な人的資源ならびに設備を活用して組織的に当たります。 

本研究によって、我が国の近隣諸国で勃発していると推測される薬剤耐性菌の蔓延機構が解明され、その知見は我が国における今後の公衆衛生政策の基礎となります。海外旅行に限らず商用等を含め多くの人々の往来、食品の輸入等により、近隣諸国で起こっている健康変化は、緊密に我が国の健康変化に直結する時代となりました。従って、ベトナムを共同研究実施対象国とした薬剤耐性細菌の発生機構の解明ならびにその対策モデルの開発研究は両国に取って実際的な意義を有し、加えて、本邦を取り巻く関係の深い近隣諸国での公衆衛生状況の把握と国際的公衆衛生政策の発展にも大きく寄与するものであります。 

さらに、日本とベトナムの間では、今後、農水産物を含む食品の貿易が増え、ベトナムは日本にとっての主要な食料貿易相手国になると考えられ、本研究はそこで起こりうる問題を予防するという観点から、日越二国間の経済交流の発展と国民の保健医療の向上に貢献できます。そして、同時に、薬剤耐性菌という近年急速に重要になっている国際的な課題解決に対しても、貢献に資するものです。

研究の目的

近年世界を震撼させているスーパー(薬剤)耐性菌の出現は難治性の感染症を引き起こし、その背景には医療に限らず畜水産にお ける抗菌剤の濫用が指摘されています。さらに、人および農水産物の世界的流通拡大に伴いこれらスーパー耐性菌の国境を越えた拡散は地球規模での対応を迫っ ています。

本研究では、耐性菌検出率が著しく増加しているベトナムにおいて薬剤耐性菌発生機構とそれが原因となる感 染症の解析ならびに発生に関与する抗菌剤の実態を微生物学的、薬物学的さらには当該国の社会・経済的背景を基にした人類学・開発学的視点より研究解明し、 これを基盤とした耐性菌モニタリングシステムの構築を目的とします。 

そのため本研究では、社会生活(食を含む生活 環境)の中で発生ならびに拡散する可能性が高く、また、耐性遺伝子がプラスミド上に存在するため耐性能が菌種を超えた水平伝播を起こし、さらに、機構は不 明であるが他の抗菌剤に対しても高い耐性能を合わせ有する多剤耐性化する性質を有しており、急速に世界的に増加しているESBL(基質特異性拡張型β‐ラ クタマーゼ)産生耐性菌を研究対象とします。

本研究によって得られる成果を基盤とした薬剤耐性菌モニタリングシステ ムの構築は食材生産課程における耐性菌発生管理を日常的に実施することを可能とするものであり、本モデルシステムのベトナム全国への将来的展開とそこから 得られる成績を基にした公衆衛生政策は耐性菌の蔓延の防止(上位目標)に有効となります。

達成目標

  • 食材生産(畜水産)・加工・販売・消費の各過程における抗菌剤残存と耐性菌検出調査研究による耐性菌発生と拡散との関連性の解明 
  • 地域における医療用抗菌剤使用実態と当該地域における住民の耐性菌保菌率との関連性の解明 
  • 当該地域拠点病院における薬剤耐性菌による感染症と当該地域住民保有耐性菌との関連性の解明 
  • 食材生産消費過程における抗菌剤・薬剤耐性菌モデルモニタリングシステムの構築(流通システムにおける食品検査体制を含む) 
  • 構築したモニタリングシステムの有用性検証 
  • 薬剤耐性菌保菌状態の安定性とそれに及ぼす影響因子の特定 
  • 薬剤耐性を含む食品安全管理における高度な知見と技能を有した専門家の育成 

これら目標の達成は効果的な保健衛生施策となり、薬剤耐性細菌による感染症の抑圧へと繋がります。本成果はベトナムのみならず周辺アジア諸国においても適用可能である波及効果の高いものです。

国際共同研究の意義

研究を当該相手国研究機関と共同で実施する意義

 

本 研究によって、我が国の近隣諸国で勃発していると推測される薬剤耐性菌の蔓延機構が解明され、その知見は我が国におけ る今後の公衆衛生政策の基礎となります。海外旅行に限らず商用等を含め多くの人々の往来、食品の輸入等により、近隣諸国で起こっている健康変化は、緊密に 我が国の健康変化に直 結する時代となりました。

本研究の共同実施国であるベトナムは、我が国の農水産物輸入国の内、大きな規模であり、特 にエビの輸入量は ベトナムからが一番多いのが現状です。従って、ベトナム を共同研究実施対象国とした薬剤耐性細菌の発生機構の解明ならびにその対策モデルの開発 研究は両国に取って実際的な意義を有し、加えて、本邦を取り巻く関係の深い近隣諸国での公 衆衛生状況(ベトナムをモデルとした)の把握と国際的公衆衛生政策の発展にも大きく寄与するものであります。

(1)ODA の技術協力プロジェクトと連携して実施する意義

本研究構想は、社会実装のためのモデル構築だけでなく、現状のベトナム社会において必要な具体的な社会実装を含む点で、ODA からの支援が必要であります。

本 研究は、薬剤耐性菌の問題を核として、感染症およびそれと関連する食品安全衛生の担 手となる人材を育成します。また、当該分野における日本側参加機関の有する技術や技能、知識 をベトナムに移転し、実際に調査・研究および研究終了後の行政にとっても必要なラボやフィ ールドステーションの設置を行います。本研究構想では、これらの活動を通して、当該分野における技術水準の向上、および制度や組織の確立や整備のために必 要なモデル構築を行いますが、これ は日本のODA 技術協力の趣旨に全く合致するものであります。

また、本研究は、薬剤耐性菌の問題を特 に食品との関連からも解明しようとするものですが、これは平成21年度に策定された「対ベトナム国別援助計画」における目標のうち、「社会・ 生活面の向上と格差是正」における「感染症対策」および「検疫体制の強化などの農水産物・ 食品の安全性確保」の2つの目標に一致するものです。

さ らに、日本とベトナムの間では、今後、農水産物を含む食品の貿易が増え、ベトナムは日本にとっての主要な食料貿易相手国になると考えられ、本研究はそこで 起こりうる問題を予防するという観点から、日越二国間の経済交流の発展と国民の保健医療の向上に貢献できます。そして、同時に、薬剤耐性菌という近年急速 に重要になっている国際的な課題解決に対しても、 貢献に資するものであります。

(2)相手国研究機関と共同で研究を実施する意義

「科 学技術基本政策策定の基本方針(案)」には、我が国の科学・技術基礎体力の抜本的強 化のための基本方針の一つに「世界の活力と一体化する国際展開」が挙げられており、そのより具体的な方策として、「アジア共通の課題解決に向けた研究開発 の推進」および「科学・技術外交の新次元の開拓」が挙げられています。

このうち前者については、アジア諸国が今後、共通して抱えることにな る可能性が高い「薬剤耐性菌」の問題について、相手国研究機関と共同して解決を目指すための研究を行い、また、「食品安全衛生」という広範な社会に直結し た実践的な分野で若手の研究者・専門家を育成し、交流を促す点で、科学技術基政策の推進に貢献するものと考えられます。また、「科学・技術外交の新次元の 開拓」については、「地球規模の問題に関する開発途上国 との国際協力の推進」が挙げられています。本研究は、政府資金(ODA)の活用と連携し、単にベトナムだけでなく、発展途上において類似の問題を抱えてい る、ないしは、抱える可能性が高い他の国にとっても、参照可能なモデルを構築する点で、科学技術政策の基本方針に合致します。

さらに、この研究によって構築されるモデルは、研究終了後も、より広範な国際協力を促しうるものであり、これを起点として、途上国における薬剤耐性菌の問題の拡大という国際的な課 題解決へ貢献するものです。

国際共同研究のスケジュール

国際共同研究の主なスケジュール(Project Flow-chart) 

*各WGの構成は「国際共同研究の実施体制と役割分担」参照、【活動】は実施計画参照。