やさしい薬剤耐性菌の遺伝子解析 入門編
DNAと遺伝子って違うの?
皆さん、こんにちは、ハノイ国立栄養院(NIN)のプロジェクト事務局取材班です。
今日は、琉球大学SATREPS特任研究員、上田宗平さんを取材しました。
上田研究員は、NINの研究員達と、日夜共同研究ラボで薬剤耐性菌の遺伝子解析を行っています。
取材班: 『上田さん、今、何を調べているのですか?』
上 田: 『Extended spectrum β-Iactamase(基質拡張型βラクタマーゼ、ESBL)産生大腸菌のBSBL遺伝子型、
大腸菌の系統型やプラスミド型について調べています。』
取材班: 『・・・わかりません、文系の私でもわかるように説明してください!』
上 田: 『ESBL産生大腸菌とは、特定の種類の抗生剤を壊してしまう酵素を作ります。この酵素を作る
大腸菌を遺伝子レベルまで詳しく調べています。』
取材班: 『そうか、抗生物質が効かない大腸菌って、酵素で抗生物質を壊していたんですね。何故、遺伝子
を調べて いるんですか?』
上 田: 『一体どこから、どのような経路で、どのようなメカニズムでESBL産生大腸菌が拡散しているの
か、あまりよく分かっていないからです。遺伝子を調べて、何故、世界中に伝播しているのか要因
を調べる必要があります。』
取材班: 『なるほど、遺伝子タイプを追跡していくと、今までの拡がり方が推測出来たり、将来、予防策を
考えられるかもしれませんね。』
上 田: 『ヒトで例えると、同じ地域に住んでいるヒトでも、見た目だけでは出身地や家系などはわかりま
せんので、それぞれが持っている遺伝子を解析して、どのような系統の一族がどこで、どれくらい
繁栄しているのか調べて、拡散の仕方や広がり方などを明らかにしています。』
取材班: 『もしかしたら、私の遺伝子タイプを調べたら、北海道出身の私と、ベトナム出身の誰かが親戚だ
ったりして。実は、私のご先祖さまがベトナムから日本へ移住していたなんて事がわかるかもしれ
ませんね。』
上 田: 『はい、大腸菌も、「食品中」「ヒトのお腹の中」「水中」などに住んでいて、遺伝子解析を行う
ことで、それらの異なる由来から分離した菌株がどのような関係にあるのか、例えば、同じ系統
の大腸菌株だけが拡散しているのか?ESBLのタイプはどの程度多様で、どのように分布して
いるか調べる事が出来ます。』
取材班: 『では、どうやって調べているのですか?』
上 田: 『ESBL産生大腸菌のDNAを抽出して、PCR法という遺伝子検出法を主に使用しています。』
取材班: 『PCR?以前、NINで研修したやつですね?(こちらを参照)
確か、菌のDNAの一部をコピーして写真を撮る方法ですね?』
上 田: 『はい、PCR法とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の原理を用いた遺伝子型診断手法の事です。
ある特定の遺伝子領域を特異的に増幅し、UV照射による蛍光で可視化し、ESBL産生菌が標的
遺伝子を持っているかどうか確認する事が出来ます。』
取材班: 『おぉ、これがESBL産生大腸菌のDNA写真ですね?!』
取材班: 『ところで、DNAと遺伝子って違うんですか?』
上 田: 『DNAとは、デオキシリボ核酸の事で、細胞の中にある、二重らせん構造をした物質です。DNAは
4種類の塩基で構成されています。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)と
いうのを聞いたことがありませんか?』
取材班: 『ATGC、はい、生物の授業で習いました!』
上 田: 『この塩基の並び方で、例えば筋肉を作る材料、髪の毛を作る材料など、材料の設計図が決まりま
す。この設計図情報を遺伝子と言います。』
取材班: 『なるほど、媒体であるCDロムと、中に録音されている音楽情報の関係みたいですね。』
上 田: 『はい、そのとおりです。DNAに設計図が記録されています。ESBL産生大腸菌のPCR解析では、
DNAの一部分だけを増やし、遺伝子を調べています。』
取材班: 『では、大腸菌の全DNA塩基配列って、調べることは出来ます?』
上 田: 『はい、次世代シーケンサーという機械で調べることが出来ます。』
取材班: 『おぉ、何かかっこいい響きですね。ヒトゲノム計画の大腸菌バージョンですね。DNAと遺伝子の
違いはよくわかりました。では次回「第3弾~やさしいシリーズ~」、楽しみにしてますので、
詳しく教えてくださいね!』