やさしい薬学シリーズ 残留抗生物質の検出編
残留抗生物質って何?
皆さん、こんにちは、ハノイ国立栄養院(NIN)のプロジェクト事務局取材班です。
今日は、薬学チームの大阪大学院薬学研究科 原田和生先生に薬学チームの活動について聞いてみました。
原田先生は、ベトナム全国を行脚し、ハノイ国立栄養院、タイビン医科薬科大学(TMPU)、ニャチャンパスツール研究所(PINT)、ホーチミン公衆衛生研究所(IPH)、ビンディエン卸売市場会社(BDWSM)、カントー大学(CTU)の研究者たちと研究しています。
ホーチミンIPHで活動する原田先生(左)
取材班: 『原田先生、薬学チームって、何を調べているのですか?』
原 田: 『主にベトナム国内の食品中に残留する抗生物質(注1)を調べています。』
(注1)ここでは抗菌性物質である合成抗菌薬を含む意味で使われています
取材班: 『食品の中に、抗生物質が残っているんですね。なぜ残っているのですか?』
原 田: 『家畜が病気に罹ったら、治療する為に薬を投与します。また、病気の予防や成長を促進させるた
めにもエサに薬を混ぜて食べさせたりすることもあります。ただ、薬を過剰に与えたり、家畜を出
荷する直前まで薬を投与し続けると、薬が体内に残ったまま肉が流通することになります。』
取材班: 『そのような薬が残留した肉を私が食べたら、何か悪影響は出るのでしょうか?』
原 田: 『よほど高い濃度で残留していない限り、私達が病気になった時に飲む量に比べれば、体内に入る
量は限られますし、加熱などで分解するものも多いので、直接影響が出ることはまずあり得ません
ただ、残留抗生物質を調べることで、本プロジェクトで調べている、食品の生産、流通、販売の現
場で抗生物質が効かない細菌が増えていることとの関連性が研究出来ます。』
取材班: 『では、どのように食品中の残留抗生物質を調べているのですか?』
原 田: 『大きく3つの方法で調べています。検査キットによる簡易検査法、HPLCとLC-MS/MSによる詳細な
検査です。』
取材班: 『えっちぴー・・・?エルシー?簡単な方から教えて下さい。』
原 田: 『検査キット(注2)がわかりやすいです。まず、市場から鶏肉、豚肉、魚等、生鮮食品を買って
きて、肉汁を採取します。その肉汁を検査キットである紫色の寒天にのせます。寒天の中には特殊
な菌が含まれていて、肉汁の含まれる栄養で増殖します。
(注2)本プロジェクトではDSM社製(日本代理店アズマックス株式会社)Premi®Testを使用しています
肉汁を抽出する原田先生(右)とNINのDungさん PINTのKhanhさん(左)とVienさん
CTUのHienさん(左)とTrangさん 肉汁を検査液に入れるTMPUのHaさん
~数時間後~
取材班: 『あっ、何本か色が変わりましたね!』
原 田: 『はい、色が変わったのは菌が増殖した為です。一方、色が変わらなかったのは、菌が増殖できな
かった為です。つまり肉汁には残留抗生物質が含まれている可能性があるという事になります。』
取材班: 『でも、どの種類の抗生物質が入っているか、検査キットでわかりますか?』
原 田: 『いえ、検査キットでは抗生物質の種類までわかりません。陽性となった検体を冷凍保存してお
き、HPLC、LC-MS/MSで詳細に解析すると、残留している物質の種類がわかります。』
取材班: 『エッチピーエルシー(HPLC)、って何ですか?』
原 田: 『高速液体クロマトグラフィーという装置です。これにより分離分析ができます。』
取材班: 『???さっぱりわかりません。高校時代、化学赤点でしたので・・・』
原 田: 『簡単に言うと、調べたい試料を筒の中に流し込んで、その筒の中を通る速度で成分を分析しま
す。』
取材班: 『ほほぉ、トンネルの中で徒競走するイメージですね。足が速いと物質A、遅いと物質Bだと判
る。』
原 田: 『はい、ざっくりそのようなイメージです。成分の量も、装置が自動的に計算してくれます。』
大阪大学でHPLC解析をするNIN のSyさん
取材班: 『あっ、これがHPLCの解析結果ですね。波が表示されていますね?』
原 田: 『はい、このピークによって、残留する物質の種類を同定しています。』
取材班: 『では、エルシーエムエスエムエス・・・?って何ですか?』
原 田: 『LC-MS/MSとは液体クロマトグラフ質量分析計のことです。正式な名前ではありませんが、
マスマスとも呼ばれたりします。』
取材班: 『ますます、わかりません・・・』
原 田: 『簡単に言うと、分子やイオンの質量を分析する機械です。』
取材班: 『なるほど体重計ですね。分子によって質量って決まってますものね。高校時代、暗記しまし
た。』
原 田: 『はい、LC-MS/MSを使うと、より詳しく残留抗生物質を知らべることが出来ます。』
LC-MS/MSの結果を確認するIPH Maiさん(左)と大阪府立公衆衛生研究所 内田研究員
取材班: 『よくわかりました。先生、ありがとうございます!』