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薬剤耐性菌研究

研究代表者ら(山本容正、平井 到)の研究室では、臨床分離株を対象とした薬剤耐性菌遺伝 子型解析、健常人などを対象としたESBL 産生腸内細菌保菌者解析を国内外において継続的に実施しています。薬剤耐性遺伝子解析研究では、近年、プラスミッド伝達性ESBL 産生薬剤 耐性の中のAmpC 型βラクタマーゼ産生腸内細菌の遺伝子型解析を本邦近畿圏で分離された 臨床分離株を検討した結果、DHA-1 型耐性遺伝子を有するK. pneumoniae が耐性菌遺伝子型 では主流となっているのに対し、E. coli ではCMY-2 型が主流となっていることを解明し (Yamasaki, et al., J. Clin. Microbiol., 48:3267, 2010)、本申請研究課題の薬剤耐性遺伝子 型解析による特定耐性菌発生機構へと進展させる基礎を築きました。細菌の遺伝子型解析研究に関しては、Helicobacter pylori の地域住民間の分布や胃癌発症との関連性研究においても実施しており(Hirai, et al., Microb. Infect., 12:227, 2010, Hirai, et al., Curr. Microbiol., 2010, in press)、充分な経験と実績を有します。

海外におけるESBL 産生腸内細菌保菌者解析研究では、ベトナムと気候や地理ならびに地方における住民の生活環境が類似したタイの農村部を対象とした薬剤耐性菌の健常人におけ る保菌状況を検討した研究を行いました。本研究では、極めて高い58.2%もの健常人にCTX-M 型 ESBL 産生薬剤耐性腸内細菌が蔓延していることを明らかにしました(Sasaki, et al., J. Antimicrob. Chemother., 65:666, 2010)。即ち、タイ北東部カンチャナブリ県農村に居住す る健常成人160 名を対象とした糞便中の薬剤耐性菌の検出調査で、141 名(88.1%)がセファタキシム(CTX)耐性を示す腸内細菌を保有していることが判明。その内の82 名(58.2%) で、ESBL 産生性と耐性遺伝子CTX-M が確認されました。これらCTX-M 型ESBL 産生菌の89% が大腸菌でした。このような健常人糞便中の薬剤耐性腸内細菌の検出研究は、世界的にも極めて少数例しか報告が無く、本研究において研究代表者らの研究室で開発途上国における検体 収集解析方法や参加者へのインタビュー方式による疫学成績の入手など多くの技術的手法を確立しました。一方、このようなアジア開発途上国における驚くほど高い健常人の薬剤耐性菌保菌率は、住民の生活環境(ブタや鶏との近接した住環境や上下水道の不備等)や畜産における抗 菌剤使用、ヒト用抗生剤が処方箋無しで購入できること等、その濫用が原因かと推測されており、本申請研究において組織的系統的に研究することにより明らかになることが期待されています。

ベトナム農村部(紅河デルタ)の小規模家畜飼育場(豚、鶏、鴨)を対象とした薬剤耐性菌 のベトナム側との共同研究による予備的検出調査(平成22 年8 月)では、別表に示す如く飼 育場の土壌等からCTX-M 型ESBL 産生腸内細菌が検出確認されました。(写真参照)

これらの研究代表者らの予備研究結果ならびに既に報告されているベトナム健常人における42%もの高いESBL 産生耐性菌の保菌率(Le, et al., J Med Microbiol, 58:1585, 2009)からもベトナムを含むアジアにおける ESBL 産生耐性菌の拡がりは懸念する状況にあると言えます。また、これら国内外における研究実績を通じて、本研究課題の実施に本研究申請研究者は充分な研究基盤を有するものです。