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やさしい微生物学 『解述む(げのむ)』編

こんにちは、プロジェクト取材班です。最近、ドラマのガリレオ再放送にハマってました、湯川先生が科学的に事件を解決するのって、面白いですよね。今日は、上田宗平さん(琉球大学)が取り組んでいる、薬剤耐性菌の遺伝子捜査について聞いてみます。琉球大学の平井教授にも解説いただきました。
ハノイ国立栄養院の研究者と研究討議中の上田さん

取材班:『上田さん、論文おめでとうございます!ガンさん達とがんばってましたからね。』

上 田:『ありがとうございます、平井先生他、多くの研究者の皆様にご指導いただいたおかげです。』

取材班:『ところで、何について書いたんですか?』

上 田:『ESBL産生大腸菌blaCTX-M-9-タイプの遺伝子について、人と鶏のプラスミドを調べて伝播状況を調べたものです』

取材班:『ぶら?さっぱり分からない。平井先生、助けてください。』

平 井:『噛み砕きますと、薬剤耐性遺伝子の「足あと」をたどった論文です。人から得られた薬剤耐性菌が持ついくつかの遺伝的な特徴の「足あと」を 追いかけて、同じようにニワトリが持つ菌の「足あと」を追いかけた時、仮にこの二つの「軌跡」がどこかで「交差」すれば、あるいは二つの「足あと」が完全に一致すれば、人とニワトリとの間で、菌の遺伝子のやり取りがあったことになりますが、ベトナムの特定地域で調査したところ、あんまり「交差」していない、ということを検証しています。薬剤耐性菌の拡散伝播が難しいのは、耐性菌としての動きと、耐性遺伝子の動きが必ずしも同じではないことですね。』

Ueda (2015)

取材班:『がってんです、わかりやすい解説ありがとうございます!』

上 田:『そうです、必ずしもニワトリから人へ単一の同じ薬剤耐性遺伝子を持つ大腸菌株が伝播しているとは言えず、限定された伝播であることを実証しました。』

取材班:『実に面白い。何かDNA犯罪捜査みたいですね。どうやって調べたんですか?』

上 田:『まず、薬剤感受性試験を行い、12種類の抗生剤に対する感受性を調べました。』

取材班:『それ覚えてます、バイキンをお皿のゼリーに塗って、薬を置いて、バイキンが元気かどうか調べるやつですね?(こちら参照)』

灰色が大腸菌、白が抗生剤、透明部分は大腸菌が抗生剤の効果で死滅した証拠。

上 田:『はい、人とニワトリで、感受性の傾向を比較します。さらに菌の遺伝子型を詳しくPCR法で比較しました。』

取材班:『PCR法も覚えてます(こちら)、標的遺伝子を、写真に撮るヤツですね?まさに足あとですね。イメージとしては、菌が履いてる靴をどんどん絞りこんで、ナイキとかアシックスとか、メーカーまで絞り込んでいき、人とニワトリが持っている耐性菌遺伝子の足跡を検証したんですね?』

PCR法で増幅したDNAの写真

上 田:『はい、検証した結果、人とニワトリの耐性菌で足跡が完全一致するものは見つかりませんでした。ただ実際のところ、足跡のバリエーションが豊かすぎるので、一部を比べる従来の方法では限界があり、足跡の全体像を正確にとらえることができないと感じました。そこで、プラスミドをターゲットとした、もっと新しい足跡解析方法を模索中なんです。』

取材班:『あの、プラスミドって何ですか?』

上 田:『染色体とは別に、独立した遺伝情報を持っているDNA分子です。大腸菌は、染色体上だけでなく、プラスミド上にも薬剤耐性遺伝子を持っています。』

取材班:『抗生物質に抵抗せよ、というプログラムが、プラスミドに書かれている、ということですね?』

上 田:『はい、薬剤耐性大腸菌は、このプラスミドをやり取りして、強くなっています。』

取材班:『実に、興味深い。ということは、このプラスミドの足あとを追跡すれば、犯人がわかる?』

上 田:『はい、まさに今、プラスミドのホールシークエンス(全DNA情報)を読み取っているところです。』

取材班:『全DNAがもし読めると、足あと全体が、くっきり見えるってことですね!』

従来の捜査から

次世代の捜査へ

上 田:『そのとおりです。薬剤耐性菌の正確な捜査ができます。』

平 井:『上田さん、早く、次の論文書いてくださいね。』

取材班:『平井先生、上田さん、ありがとうございました!科学の力で、事件を解決ですね。』