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長期研修員 研修評価会

2017年2月24日、大阪大学と大阪府立大学の博士課程を修了し学位を取得する見込みの長期研修員、Nguyen Van Sy(シィ)研究員とHoang Hoai Phuong(フォン)研究員が、JICAの研修評価会に参加し、博士論文の発表をしました。評価会は、大阪大学、大阪府立大学、JICA本部、JICAベトナム事務所(ハノイとHCMC)をつなぐテレビ会議で行われました。

TV会議の様子

分析化学を専門とするシィ研究員は、2014年にハノイ国立栄養院(NIN)から大阪大学大学院・薬学研究科へ留学し、食品と環境中に残留する抗菌性物質の検出方法について研究してきました。特に、水中に流出していると思われるβラクタム系の抗菌性物質は、すぐに分解されるため、これまでは検出が非常に困難でしたが、分解過程で残るHPPという物質に着目し、HPPを検出する手法を開発し、博士論文にまとめました。薬剤耐性菌の蔓延は、人や動物に対する抗菌性物質の濫用が影響していると言えるため、シィ研究員が開発した検出手法は、食品や環境中に残留している抗菌性物質をモニタリングするために有効である、と提言しました。

一方、フォン研究員は微生物学者であり、ホーチミン公衆衛生研究所(IPH)から大阪府立大学大学院・生命環境科学研究科へ留学し、主に実験動物(マウス)を用いて、抗菌薬の投与が薬剤耐性菌の高度耐性化、多剤耐性化に及ぼす影響、さらには遺伝子レベルでそれらのメカニズムを解析しました。彼女はホーチミンの健常人から採取した糞便サンプルから大腸菌を分離し、その性状と遺伝的なプロファイリングを行い、複数の抗菌薬が効かなくなるESBL産生大腸菌を含む多剤耐性菌が多いこと、またその中の一部の菌で病原性遺伝子が含まれることを見出し、公衆衛生学的な脅威を警鈴しました。また、マウスモデルの結果から、高濃度の抗菌薬をマウスに経口投与すると、マウス腸管内のESBL産生大腸菌が多剤耐性化・高度耐性化することを解明しました。菌から菌へ容易に伝達されるトランスポゾンやプラスミドというDNA上にある薬剤耐性遺伝子の数が増えたことがその原因であったことを明らかとしました。彼女の論文は、不適切な抗菌薬投与が実際に高度耐性化、多剤耐性化に関与することを科学的に証明し、不適切な抗菌薬の使用を戒めるための重要な証拠を提示しました。

二人の発表後、所属先のNIN、IPHからも活発なコメントがあり、帰国後も薬剤耐性菌対策に取り組む決意表明が出されました。

JICA関西から研修修了書を受け取るシィ研究員(左) 大阪大学にて
大阪府大で実験中のフォン研究員
JICA本部からのコメント
ホーチミンIPHからのコメント