やさしい微生物学『マウスモデル編』
こんにちは、プロジェクト取材班です。今日は、大阪府立大学・生命環境科学研究科・獣医国際防疫教室、日根野谷淳先生に、薬剤耐性菌のマウスモデルについて聞いてみました。日根野谷先生の所属する山崎研究室は、ベトナムのPhuong研究員を受け入れ、日夜、マウスモデルの検証を行っています。 | |
マウスモデルの実験をするPhuong研究員 | |
取材班 :『日根野谷先生、大阪府大チームの研究テーマは何ですか?』 日根野谷:『ESBL産生大腸菌の保菌状態の安定性とそれに及ぼす因子解析です。』 取材班 :『うっ。さっぱりわからないです。』 日根野谷:『簡単に言うと、どんな薬を、どのように、どのくらい動物に投与すると、どのように動物が持っている薬剤耐性菌が変化するのか、調べています。』 取材班 :『なるほど、動物に与える薬(ここでは抗菌薬)の種類、量、与える期間と、薬剤耐性菌の関係性を調べているのですね?なぜ、調べているのですか?』 日根野谷:『抗菌薬の投与の仕方と、薬剤耐性菌が出現する関係性が、よくわかっていないからです。ブタ、ウシ、ニワトリといった我々が食肉として口にすることが多い家畜は、治療以外に病気の予防や成長促進の目的で抗菌薬が日常的に餌と一緒に与えられる場合があります。抗菌薬が家畜のお腹の中で薬剤耐性菌を出現させると言われているので、これには注意が必要です。例えば、ブタを飼育している農場で、害のある薬剤耐性菌が増えてしまうと、ブタが病気にかかっても治りにくい、治らない、という問題に直面しますよね。我々の研究は、そのような問題を解決するために必要な科学的な根拠を示すことを期待しています。』 取材班 :『実に興味深い。具体的に、どのように調べているのですか?』 日根野谷:『実験動物(マウス:ハツカネズミ)モデルを使っています。まず、マウスを薬剤耐性菌に感染させます。そのマウスに、特定の抗菌薬を一定期間飲ませます。そして、マウスのお腹(腸管)に住んでいる薬剤耐性菌が、どのように変化するか、調べています。』 マウスに抗菌薬を投与 取材班 :『これまで、どんなことがわかっていますか?』 日根野谷:『βラクタム系の抗菌薬のうち、セフォペラゾンとアンピシリンを一定期間マウスに投与すると、ESBL産生大腸菌がマウスの腸管に定着しやくすなることがわかっています。また耐性菌の抗菌薬に対する抵抗力、薬剤耐性能が高くなることもわかっています。』 取材班 :『その研究、Phuongさんが学会発表して賞を受賞してましたね。最新の研究状況を教えて下さい。』 日本細菌学会でマウスモデルについて発表するPhuong研究員 日根野谷:『イン・ビトロで、ESBL産生大腸菌の耐性遺伝子が、病原性大腸菌へ、水平伝播している可能性も出てきています。』 取材班 :『イン・ビトロって、何ですか?』 日根野谷:『イン・ビトロ(in vitro)とは試験管の中という意味で、人工的な条件下の環境のことを言います。反対は、イン・ビボ(in vivo)と言い、生体内という意味で、マウスの体の中で起こっていることを示します。』 Phuong (2015)
取材班 :『なるほど、仮説を立てるときの条件ですね。ところで病原性大腸菌って、怖そうな名前ですね、例えば何ですか?』 日根野谷:『ほとんどの大腸菌は無害ですが、病原性大腸菌は、下痢などを引き起こす毒素を出し、動物や人に害を与えます。例えば、下痢を起こす、腸管出血性大腸菌です。有名なのは、O157です。』 取材班 :『O157、食中毒のニュースで聞いたことあります。病気を起こす大腸菌が、薬剤耐性になると怖いですね。家畜だけでなく、人間にとっても脅威ですね。』 日根野谷:『はい、薬剤耐性遺伝子が、どのようなメカニズムで病原性大腸菌に伝播するのか、実験室レベルで検証しています。この研究は、公衆衛生対策にも応用できます。』 取材班 :『よくわかりました、先生、ありがとうございました!』
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