活動成果

2018.12.11

活動成果

【報告】静岡県立大学 薬事研修プログラム

日程:
12月11日〜14日、12月18日(5日間)

研修場所:
静岡県薬事課、静岡県環境衛生科学研究所、日医工株式会社静岡工場

概要:
 静岡県薬事課の協力により、多くの製薬関連工場がある静岡県の特徴を活かしたレギュラトリーサイエンスに関する研修プログラムを実施した。
 本プログラムには静岡県立大学から3名、名古屋市立大学薬学部から1名の学生が参加した。プログラムの概要を以下に記す。
 研修1日目および2日目は、静岡県薬事課において静岡県の薬事監視体制、医薬品医療機器等の法律、GQP、GVP、GMPに関する講義によって基礎的な知識を習得した。また、静岡県環境衛生科学研究所において医薬品の試験検査に関する基礎的な知識を習得し、各種測定法のデモンストレーションを見学・体験した。研修3日目および4日目は、薬事機動班と共に医薬品製造工場(日医工株式会社静岡工場)に赴き、機動班の薬事監視業務を見学した。研修5日目は静岡県薬事課において、研修内容をまとめたレポートの作成、発表、総合討論を行った。
本プログラムに関する記事を学部のHPに掲載した。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/index.php/news-oth/1103-2018-12-26

実施した感想:
 静岡県には多くの医薬品等製造事業所がある。このような地域の特徴を活かし、レギュラトリーサイエンスを基盤とした医薬品の開発・製造における薬剤師の職能を学び・体験することが出来たと思う。本プログラムによって、薬学生が薬剤師の社会的責任を認識し、薬の専門家として国民の健康な生活を守る使命感・責任感・倫理観の涵養が期待できる。

参加学生の感想:
①私はもともと行政に関わる薬剤師の仕事に興味があり、今回の研修プログラムに参加を希望した。行政に関わる薬剤師が行っている仕事として、薬局の調査、川やプールなどの水質検査、食品添加物の調査、薬物乱用防止などしか知らなかったが、今回初めてGMP 適合性調査について知ることができた。まず、静岡県は医薬品の製造所の数が全国1位であり、医薬品・医療機器生産額が7年連続で1位であるため、他の県に比べてGMP に関する業務の割合が多くなるということを学んだ。
GMP とはGood Manufacturing Practice の略語であり、「医薬品及び品質管理の基準」である。GMP の根拠は、薬機法第14条(医薬品等の製造販売の承認)に規定されている。このGMP に適合しているかどうか調査するのが薬剤師の仕事である。GMP適合性調査は大きく分けて新規のものと、5年ごとに行う定期のものがある。今回は新規のGMP 適合性調査に同行させていただいた。
GMP 適合性調査業務として大きく分けて3つあり、現場調査、書類調査、講評がある。現場調査では、倉庫、品質管理、製剤工程、包装工程など、製造に関わる全ての設備をまわって調査を行った。リスクに基づく調査であるため、全ての製造所に当てはまる調査チェックリストは存在せず、個々別々の構造、作業状況、製造機器・器具の管理状況について調査するため、相手への質問を通してどこが重要工程で、どこにリスクがあるか考えながら調査していた。機動班の方は、説明がなかった設備にも目を向け、どのような設備なのか、今回の製造に関わっている設備なのか確認していて、細かなところまで観察する能力がとても大切であると感じた。また、GC やLC など専門的な知識が備わっていないと、どこにリスクがあるのか、リスクがあった場合どのように改善することができるのかがわからないため、薬学部で学んだできた知識や専門性を活かしていく必要があると感じた。書類調査では、製造に関わった全ての書類を確認した。リスクが潜んでいる可能性がある箇所は、確実に安全であるとわかるまで様々な質問をくり返し、必要であればそれを証明できる別の書類の提示を促すな
ど、徹底的に安全が証明されるまで調査していた。小さなリスクも見逃さないように気を配るのはとても集中力が必要であると感じた。講評では、事前に機動班だけで、何をどのように指導するかディスカッションを行ってから、製造所に伝えた。
今まで、GMP については言葉と定義について知っている程度で、詳しい内容については全く知らなかったため、今回の研修プログラムを通して多くの知識を身に付けることができた。機動班の方のように、様々なリスクを想定して改善していくためには、多くの知識と経験が必要であると感じた。また、このような厳しいGMP 適合性調査に合格した医薬品だけが市場に出回っていると知って改めて安心した。わたしも将来、このように医薬品の安全性の確保に関わっていきたいと強く感じた。

②今回私は、行政薬剤師がどのような仕事をしているのか知りたいという思いで本プロジェクトに参加しました。参加する以前は法律に関する知識が浅く、GMP という言葉自体は知っていましたが、具体的にどのようなものなのか、また薬剤師がそれにどのように関与していくのかということに関して全く想像がつきませんでした。そのため、初日の講義において、法律やGMP の仕組みについて授業では教わることの無いような細部まで学ぶことができ、とても勉強になりました。2日目の座学においては実際の製造工程で用いられる打錠機や造粒機等の仕組みについて理解し、どのようなリスクが考えられるのかについて学びました。環境衛生科学研究所見学では、様々な検査機器、器具、試薬が全てバリデートされており、適切に管理・保証された機器等を用いて実際に医薬品が製造されているということを知りました。
そして実際にGMP 調査に同行し、自分の知識、事前情報、現場情報、相手の回答を総合的に判断し、事前に学んだこと以上に細部まで調査・指導を行っている姿を見てとても驚きました。またこの2日間の調査で医薬品はそのように厳密に管理された中で製造されているのだということを間近で感じることが出来ました。行政薬剤師は薬局・病院薬剤師とは異なり、直接患者様に関わる機会は少なく、比較的自分のした仕事に関して実感がわきにくいというイメージがありました。しかし今回のGMP 調査を通して、法的基準を満たしているかにとどまらず、物理、化学、薬学等の様々な観点からリスクを考え、指導していくことで、より品質、有効性、安全性の高い医薬品が患者様に供給されるという点でとてもやりがいのある職種であると感じました。また、医薬品調査・管理だけでなく、薬物対策、大気・水質等の環境整備、地域医療の促進等様々な分野で薬剤師が活躍していることを知り、患者様だけにとどまらず、国民の健康に貢献できるという点で、行政薬剤師により興味がわきました。本プロジェクトでは大学で決して学ぶことの出来ない貴重な体験をすることが出来ました。

③私が本プログラムに参加しようと思ったのは、薬剤師資格を有する者が行政でどんな活躍をするのか知りたいと思ったためです。大学で1ヶ月ほど前まで実務実習をしていましたが、病院や調剤薬局であっても薬剤師は薬剤のスペシャリストという印象を持ち、実務実習を通して実際にどんな仕事をしているのかある程度分かりました。
一方で、薬剤師の公務員は、「幅広い仕事をするジェネラリスト」という抽象的なイメージであり、実際にどのような仕事をしているのか全く知りませんでした。ジェネラリストという言葉には、「広く浅い」というイメージがありましたが、実際にどのような仕事か目の当たりにすると、「とても奥が深く、かつ広い」という印象に変わりました。
本プログラムでは、薬剤師が配置されている静岡県庁の数ある部署のうち、健康福祉部の生活衛生局、そのうちの薬事課薬事審査班の業務であるGMP適合性調査に参加させていただきました。
プログラムの1日目、2 日目でGMPや薬機法等について学習しました。まず始めに静岡県の薬事監視体制について学習し、GMP調査に求められる技能や能力について学習しました。そして薬機法の歴史や意義、医薬品の定義や医薬品と認められるまでのプロセスなど、基礎を学びました。その後、GMP調査の意義や、調査項目を学びました。1日目、2 日目でGMP調査についての初歩的な知識を学習すると、2 日目の午後に環境衛生科学研究所にて、実際に企業ではどのような機器を使い、どのような試験を行っているのか見学しました。大学の研究室では秤量や試薬管理など、あまり気をつけていませんでしたが、企業ではGMPを遵守するために天秤や試薬などの使用記録を、どれほど詳細に記録しているのか実感しました。
3 日目、4 日目では実際に製薬会社に行き、実際のGMP調査に同行させていただきました。3 日目は施設を見学し、実際の製造過程を見ながら調査しました。校正の記録や管理方法など、とても細かいところまで見学していました。4 日目には資料にて調査し、最後には指摘も含め、講評を伝えていました。医薬品開発の承認を得たいという製薬会社と、より良い製薬環境を求める県の話し合いは、とても表現できないような緊張した雰囲気で進んでいました。
私はこのプログラムを通して、いかに薬を作るのが難しく、いかに県の代表としての公務員の仕事が重大か実感しました。

④行政に関わる薬剤師の業務は幅広いですが、その中で県の職員しか携わることのできない業務の一つにGMP 省令に関する業務があります。県内に様々な会社の医薬品の品質維持、事故防止に関わることのできるGMP 省令に関する業務に興味がありましたが。しかし実際はどういったことをするのか全くイメージできていませんでした。今回の研修でGMP 業務のイメージが鮮明になり、薬事行政を通して多くの人々の健康・生活を守ることに魅力を感じています。
1 日目の座学でGMP を行う法的根拠について学んだ後、GMP とはどういうものか詳しく学びました。GMP の3 原則に人為的な誤りを最小限にする、高品質を保障する、汚染・品質低下の防止というものがあります。とても当たり前のことです。しかし、現場に行くとこの3 原則が事業所による多く手順と記録、そして査察官の調査によって達成されていると実感しました。
現場に行く前、研修に関わる職員さんが、「調査は品質に関わることについて調査しなければならない。品質に関わらない、細かいことをいちいち聞くのはあら捜しだ」とおっしゃっていたことがありました。実際の現場では調査の時間が制限されています。医薬品の製造手順は秤量の方法から、使い捨てゴムバンドの廃棄手順まで決まっており、それら一つ一つを手順が適切か、また決められた手順と現場で行われている内容があっているかを確認していては決められた時間内に終えることは絶対にできません。限られた時間の中で査察官の方が調査している項目は全てそれが達成されていないと品質に影響があるかもしれないことばかりでした。
GMP 適合性調査では最後に査察官がその場で査察総評を述べる場面があります。その際、事業所の方が必要以上に指導内容に振り回されないよう、かつ、きちんと承認が取れるようにするにはどう指導内容を伝えるべきか悩ませていたのが印象的でした。行政の人の発言はそれが時にはお墨付きとして扱われてしまうため、行動、発言について慎重であることが必要とされる場面もあります。なので、指導はもっと守りに入った、省令通りを要求する内容であってもいいとおもいます。しかし、事業所の立場に立ち、具体的にどうしていくべきかを指導しようとする姿を見て、事業所を指導するだけでなく、ともにリスク軽減に向けた改善策を示すこと、そうして安全な医薬品を届ける支援をすることが行政で働く薬剤師の使命であると感じました。

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