活動成果

2018.11.30

活動成果

【報告】長崎大学 学生自主研修(ニューメキシコ)

日程:
2018年11月3日~11月11日(7泊9日)

研修先:
ニューメキシコ大学(UNM)

概要:
【1日目】UNM薬学部施設の見学/講義を聴講/アメリカの薬剤師制度について
【2日目】HIPAA(コンプライアンス)トレーニング/大学病院のペインセンターにて臨床薬剤師の業務を見学/UNM薬学部の研究者とディスカッション
【3日目】学生とともに講義を聴講(Oncology)
【4日目】2つの地域薬局の訪問/Project ECHO(テレビ会議による症例共有)の見学/大学病院薬剤部の見学/キャンパスツアー
【5日目】毒性管理センターを訪問した/UNMへの短期留学に関する説明

実施した感想:
想像以上に得るものが大きかった。学生も満足そうで、プログラムは大成功だったと思われる。アメリカ合衆国の英語は、地域によって大きく異なるが、ニューメキシコ州アルバカーキ現地人の英語は日本人にとって聞き取りやすいと感じた。アルバカーキの方々は皆さん親切であった。そのようなことから、来年以降もぜひ続けたいと考えている。そのためには、UNMと連携体制を構築する必要があり、3月にUNMの学部長、学科長とDr. Mikiko Takedaを長崎大学に招聘し、議論を交わす予定となっている。

参加学生の感想:
①まず、教育システムとニューメキシコ大学(UNM)の学生の勤勉さに驚きました。日本では座学での講義が多いのに対して、UNMでの授業は主にActive learningであり、生徒が主体的に授業に参加している印象を持ちました。また、普段の予習・復習のために1日平均4時間程、勉強しているとのことで、日本人として見習いたいと思いました。また、IPPEとAPPEの制度により、授業と実習が解離しづらく、応用力も身につく点は非常に良い点だと思いました。
薬剤師になるのも大変ですが、職能としては、医師の手助けとしてできることが日本の薬剤師と比べて多く、非常にやりがいと責任のある職務だと思いました。また、OTC薬の種類も日本と比べて多く、その弊害として、中毒事例も多いのではないかと考えました。アメリカにはPoison centerが24箇所もあるそうですが、日本ではあまり馴染みがなく、中毒・副作用に関するデータベースの豊富さやToxic callによる無償の対応には驚くばかりでした。病棟での配管による薬物の運搬や、薬局でのCompoundingと検査サービスの提供も日本とは大きく異なっており、アメリカの薬学が進んでいる点だと思いました。
保険制度については、日本と大きく異なっており、国民皆保険でないアメリカでは、入っている保険の種類によって適用される医療用医薬品が限られることは、日本では考えられないことと思いました。この点、日本の保険制度は優れていると思いました。
研究については、わずかですが、自分の研究について1分程度で簡潔な説明を行うことができました。機会があればもう少し研究面についても学びたいと思いました。
本研修は薬学部の先生、病院の職員、学生等、多くの人と会話し、積極的に質問を行うことができました。英語を流ちょうに話すまでには期間が短すぎましたが、英語のコミュニケーション能力は向上できたのではないかと思います。1週間という短い期間で非常に多くのことを学ぶことができ、本プログラムに参加して心から良かったと思います。今回の研究で学んだことを、学内の学生には伝達しましたが、是非とも、次の世代の学生にも受けてもらいたいプログラムだと思いました。

②【講義】UNM学部は講義内でのディスカッションを重視しているとのこと。そのため、教室の配置もディスカッションしやすいようになっていたのが印象的だった。実際に3年生の講義を見学させてもらったが、退屈そうにしている学生は皆無で、全員が講義に「参加」していた。特に、周りの数人でディスカッションしたり、講義中でも質問があればその都度発言して講師に聞くという積極的な姿勢は、日本の学生も見習った方がいいのではないかと感じた。
【薬剤師制度】アメリカの薬剤師制度は日本と異なり、2年ごとの更新制となっている。知識が抜け落ちていても生涯にわたって薬剤師免許を保有できる日本とは大きく異なり、常に知識をアップデートしなければ保有することを許されない点は、患者にとって非常に有益な制度である。
【地域薬局】2つの特徴的な地域薬局を訪問した。そのひとつでは医師からの処方に基づいてその場で原薬から製造しており、アメリカの制度の大らかさを感じた。日本は規制が厳しいが、少しぐらい融通を利かせて緩くしてもいいと感じた。このような視点を来年以降の業務に活かしたいと思っている。
【臨床薬剤師】大学病院・ペインセンターでの薬剤師業務を見学した。そこでは体内埋め込み型ポンプを使ったオピオイドの持続投与が行われており、薬剤師が主導となって管理していた。ポンプ内の薬剤の補充を見学したが、医師が出る幕は一切なく、薬剤師が看護師に指示して薬剤を補充していた。国として臨床を重視した制度を持ち、高度なトレーニングを受けているからこそ、行える業務であると感じた。

③私は今回、医療先進国であるアメリカでの薬剤師の役割や医療現場での活躍を実際に自分の目で見て学び、それらを日本の薬剤師の現状と比較することで、今後の日本の薬剤師の在り方について考えを深めたいと思い、研修に参加させていただきました。
 大学病院や薬局等の臨床現場を見学させていただいた中で、やはり一番違いを感じたのは業務内容です。アメリカでは調剤助手が調剤業務を担っており、一部施設ではコンピューターでの監査も取り入れられています。そのためアメリカの薬剤師は調剤行為に大幅な時間を割くことなく、患者さんへの直接ケアや医師との薬物療法の共同作業等、より専門性の高い業務に時間を費やすことができます。さらに、医師から委任を受ければ決められた範囲で処方箋を書くことが可能であり、薬剤師が専門性を持って薬剤を選択、投与量の決定、モニタリングを行うことができ医療事故防止にもつながります。また、医療費が高額であるアメリカでは、病気のことや健康上の不安を無料で気軽に相談できる場所として薬局を利用する方も多く、加えてインフルエンザの予防接種を薬剤師が打つことができるということに驚きました。実際に薬局を2か所訪問しましたが、それぞれコレステロール・心房細動の検査を行いその結果をもとに医師に処方提案する、幅広い薬局製剤を製造している、自社ブランドで品質の良いサプリメントを提供している等特徴を持つことで差別化をはかり、その強みを活かして患者さん一人ひとりにあった薬物療法を提供していることを学びました。以上のようにハイレベルな知識と技術、コミュニケーション能力を必要とされるからこそ、他職種・患者さんからの絶大な信頼を得ているのだと実感しました。
臨床現場だけではなく、教育現場においても日本との違いを感じました。特徴的であると感じたのは、アメリカにおけるプレファーマシー制度です。アメリカで薬剤師を目指すには、高校卒業後にプレファーマシースクールにて有機化学、生化学、生理学、物理化学等基礎的な科目を履修した後、ファーマシースクールにて臨床的な教育を中心に受けることになります。今回見学させていただいたUNMの入試では、プレファーマシースクールでの成績だけではなく、受験者の人格・思考能力・態度を重視する面接や、どれだけ薬学部に入りたいかをアピールする自己紹介により合否が決まるそうで、薬学部の入学への難易度が高く、入学の時点で薬学生として強い意思を持っていることを実感しました。それは授業態度にも反映されていました。UNMでは授業内でグループディスカッションを積極的に取り入れていますが、生徒の皆さんは積極性と協調性を持って参加し、発言や行動に自信があり、一緒に授業を受けていてとても刺激を受けました。また、日本の薬学部と比べ臨床実習期間が非常に長く充実しており、1年次から基礎的な臨床実習(IPPE:Introductory Pharmacy Practice Experiences)を行い、4年次には1年間にわたり高度な臨床実習(APPE:Advanced Pharmacy Practice Experiences)を行うそうです。実際に研修中にお会いした実習生の方はみなさん自信を持って業務に臨まれていて、すでに現場の薬剤師として働いているかのような印象を受け、薬局・病院実習を終えたばかりの自身と比較して大きな衝撃を受けました。
1週間の研修を通してアメリカにおける薬剤師の役割や教育現場の特徴を学ぶことにより、改めて日本の薬剤師の良い点・問題点に気づかされました。もちろん法律や文化、社会保障制度、教育制度が異なるためアメリカのシステムをそのまま日本に導入するには多くの問題点もあると思いますが、上手に取り入れることができれば、薬剤師としてさらに高度な職能が発揮でき、質の高い医療の提供に繋がるのではないかと考えました。
研修中、毎日新しいことに出会い多くを学び刺激を受け大変有意義な時間を過ごすことができました。このような貴重な経験をさせて頂いたことに心より感謝申し上げます。

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