【報告】岡山大学ウェイン州立大学短期研修プログラム
2023.09.17
【日程】2023年9月27日(日)~24日(日)
【研修先】アメリカ合衆国ミシガン州デトロイト市・ウェイン州立大学
ユージン・アップルバウム薬学・健康科学部(EACPHS)
【参加者】学生3名、教員2名
【プログラム・研修等の内容】
日程:9月17日(日)より9月24日(日)
1日目:日本発-デトロイト着
2–6日目:デトロイト泊、7–8日目:デトロイト発-日本着
【1日目、(日曜日)】
出国・デトロイト・メトロポリタン空港到着
【2日目、(月曜日)】
・午前:米国における薬学教育について(会場:EACPHS学部長会議室)(対応者:Susan Davis副学部長、Lynette Moser PPR 議長*、
Steve Firestine PSC 議長**、Francine Salinitri体験教育ディレクター)(*PPR: Pharmacy Practice Research, **PSC: Patient support center)
・午後:診療現場訪問・病院薬局見学(デトロイトレシービング病院)
(対応者:Dennis Parker臨床准教授)
【3日目、(火曜日)】
・8:30-11:20 PharmD 講義訪問: 患者ケアのシミュレーション
(対応者:EACPHS 患者ケアラボ Sheila Wilhelm臨床教授)
・11:30-12:20 学生団体
(対応者:EACPHS Jozy Hayekアカデミック サービス オフィサーおよび学生組織のリーダー)
・午後1:地域薬剤師について(会場:PPR 会議室)
(対応者:EACPHS Brittany Stewart臨床准教授、Joseph Fava臨床准教授)
・午後2:診療現場訪問(会場:Meijorショッピングモール)
(対応者:Brittany Stewart臨床准教授)
【4日目、(水曜日)】
・現地学生との交流(デトロイト美術館等訪問)
【5日目、(木曜日)】
・午前中:診療現場見学会 アンビュラトリーケア
(会場:Henry Ford Health(糖尿病病棟、間質性肺疾患クリニック))
(対応者:Amber Lanae Martirosov臨床准教授)
・12:30~2:20pm薬学講義への参加:統合薬物療法モジュール
P2 薬物療法の原則 内分泌(対応者:Linda Jaber教授)
・2:30pm~4:00pm 医療システムにおける薬剤師と薬剤師のためのポストグラデュエートトレーニングプログラム(会場:EACPHS PPR会議室)
(対応者: Michael Veve臨床准教授、Candice Garwood臨床教授)
【6日目、(金曜日)】
・朝1 討論会(薬学研究について)
(対応者: Chris Giuliano臨床教授、Andrew Lipchick准教授)
・朝2 薬学講義への参加: 薬物療法の問題解決に関する学習
・午後 EACPHS 研究室訪問
1) 抗感染研究所(ARL)
2) トランスレーショナル神経精神薬理学 (TNP2) ラボ(Mike Rybak 教授、Christine Rabinak准教授)
3) 毒性学ラボ(Brian Cummings教授)
7日目(土曜日)–8日目(日曜日)
デトロイト・メトロポリタン空港(DTW)より帰国
【参加した感想】
学生A:
今回の研修で、アメリカの薬学教育や薬剤師の役割、研究について知り、実際見学することで、多くのことを学びました。その中で、印象に残ったことを挙げたいと思います。
まず、薬学教育についてです。ウェイン州立大学PharmDコースのカリキュラムに関して日本と異なる点は多数ありますが、臨床に結びつく授業が低学年から多いことが特徴だと感じました。具体的には、今回の研修の中で実際に見学させていただいた、薬物治療の問題解決に関する授業が印象に残っています。この授業は症例をもとにした授業で、提示されている症例の情報を収集して問題点を挙げ、グループで話し合って解決策を考えるというものです。解決策としては薬の剤形や用量まで細かくプランを立て、最終的にはSOAP形式で記載しており、低学年のうちから問題解決能力の養成に力を入れていることは素晴らしいと思いました。他にも授業を見学し臨床と教育の結びつきが強いことを学び、とても魅力的であると感じました。日本においても、低学年のうちから臨床を意識できるような授業や、実習を終えた5、6年生と低学年が共同で、症例に基づいた問題に取り組む授業などがあれば良いと考えました。問題に取り組む中で薬学的知識への理解が深まり、特に低学年は臨床を意識でき、良い刺激になるのではないかと思います。
次に、臨床現場で働く薬剤師についてです。今回の研修で病院と薬局を見学しそれぞれにおける薬剤師の役割を学び、薬剤師の職域の広さ、意識の高さに驚きました。アメリカの病院では日本と異なり、各州により規定された薬は薬剤師にも処方権が与えられており、患者さんの状態に合わせて用量などを変更することが可能です。また、医師が患者さんと話す前に薬剤師が介入するケースがあることは印象に残りました。具体的には、医師との面談前に薬剤師が患者さんの情報収集を行い、副作用や医療費などの治療に関する情報を提供し、最終的に患者さんに治療を開始するかの確認を取っている様子を見学しました。このようにアメリカの病院薬剤師は日本と比べて職域が広く、周りから専門性が認められ信頼されていることを感じました。さらに、ファーマシー・テクニシャンの方が水剤、軟膏剤の計量や混合だけでなく、抗がん剤を含む注射剤の調製も行うことができるため、薬剤師は患者さんの状態を把握することや服薬指導に時間をかけることができます。この制度はとても魅力的で、患者さんにとって最適な治療の提供に貢献していると思いました。
薬局の特徴としては、スーパーマーケット併設型が多く、ドライブスルーや電子処方箋が導入されていました。患者さんの利便性を重視しており、待ち時間を短くする工夫が多くなされていました。薬局薬剤師の職域も広く、ワクチン接種が可能で、リフィル処方箋の使用の可否を判断でき、疑義照会も日常的に行っていました。現場の薬剤師に話を伺うと、薬剤師の専門性が認知されるようになってきていること実感しているとおっしゃっていました。さらに、患者さんに積極的に介入している薬剤師の姿が印象的でした。具体的には、患者さん自身が納得して薬物治療を受けられるように治療内容に関する情報提供を行い、今後のプランまで話し合ったり、入院せずに済むように電話で経過確認を行ったりしていました。臨床現場で働く薬剤師を実際に見て、1人1人のレベルが高く、医療従事者からの信頼が厚く、薬剤師として誇りを持って働いている姿に大変感銘を受けました。また、ファーマシー・テクニシャンや電子処方箋などは、将来的に日本でも導入することで薬剤師の負担軽減やより良い薬物治療の提供につながるのではないかと考えました。
また、研究に関しては、アメリカにおいても日本と同様に病院と研究所の共同研究は盛んに行われており、見学させていただいた研究室も素晴らしかったです。さらに、日本の方がアメリカより臨床と研究の結びつきが強く、薬剤師業務に研究能力を活かせる環境があると感じました。今回の研修を通して、アメリカにおける薬学教育や薬剤師の役割、研究などを詳しく学ぶことで、日本の現状について改めて考えるきっかけになりました。主にアメリカで見学した良かった特徴について書きましたが、日本とアメリカそれぞれに誇れる点があることを学び、日本の優れた点を伸ばしながら少しずつ違いを取り入れていくことの重要性を感じました。さらに、この研修で薬剤師の誇りを持って働く姿勢、学生の授業に対する能動的な姿勢を実際に見て、良い刺激を受けました。特に学生同士で議論したり、先生に質問をしたり、意欲的に学ぼうとする姿勢が印象に残り、改めて積極的に学ぶことの重要性を感じました。私は学生なので日本の臨床現場について知らないことが多いですが、将来的に、広い視野を持ち積極的に学び、自分だけではなく周りの人にも共有することで意識を変えていき、日本の現状をより良くすることに貢献したいと思いました。今回の研修で学んだことを意識して、これからしっかり研究活動と臨床業務を行い、さらにどういう薬剤師を目指したいかを考えていきたいと思います。この研修で、ウェイン州立大学の先生方とのディスカッション、授業や臨床現場の見学、学生との交流など、有意義な時間を過ごすことができました。最後になりましたが、大変貴重な経験をさせていただいた岡山大学およびウェイン州立大学の先生方、関係者の皆様に改めて感謝申し上げます。
学生B:
私はこのアメリカ合衆国デトロイトにおける国外研修で、教育の重要性と臨床における薬剤師の多方向からの治療への関わりを学びました。
まず、薬学教育についてはWSUでは学生を専門性の高い薬剤師に育てるために、1年生の時から実際の症例をベースにしてグループで治療法を考える授業や臨床現場における実習が行われており、実際にお話ししてくださった教員の方々も学生の教育に非常に熱心に取り組まれているのが印象的でした。そのような教育を受けている学生もまた、授業・実習への参加に加えて、自ら率先して学生団体に参加し、他の医療系学部の学生とともに薬や治療に容易にアクセスできない人々を助ける活動を行っていたり、自分より下の学年のメンターとなってグループで人を教育することを学ぶような活動を行ったりしていて、綿密に計画された薬学教育が学生の意識の高さに直結していることをひしひしと感じました。
臨床における薬剤師の治療への関わりについては、アメリカでは薬局と病院の他に主に慢性疾患の患者さんが通院する外来のクリニックにも薬剤師が常駐しています。そこでは、医師の診察に薬剤師も同席して患者さんからヒアリングを行ったり、その日の検査値を基にして薬剤師が処方を行ったりしていて、日本とは全く異なる薬剤師の治療への関わり方に衝撃を受けました。また、治療を始めた患者さんに対してフォローアップを行う中で患者さんが薬剤師に薬を処方してもらったり、生活習慣を改善するための相談をしたりするなど薬剤師に会うためだけに来院することがあるということも驚きでした。この外来のクリニックの見学を通して、薬剤師の医師や患者さんとの信頼関係が強固に築き上げられているからこそ、薬局や病院にとどまらない薬剤師の多方向からの治療への関わりが可能になっていることを感じました。
アメリカと日本を比較して、アメリカの薬剤師の方が職能がかなり広い一方で在宅医療は日本の方が広く行われているということも学び、日本の現状と課題に合わせて、柔軟に日本の薬物治療の良い点を活かしつつ、アメリカの薬物治療の良い点も取り入れていくことが今後の日本におけるより良い薬物治療につながるのではないかと思いました。
最後に、教育と臨床現場の両方において、今までの方法にとらわれず、それぞれで必要とされていることに応じて柔軟にカリキュラムや薬剤師の役割が変化していることも今回の研修を通して学び、今後の日本の薬学教育や薬物療法をより良くしていくことに貢献できるよう、今までの方法にとらわれず常に目的の達成のために柔軟に考える姿勢を意識して大切にしていきたいと思いました。
学生C:
本研修では、臨床および教育に対する薬剤師の在り方について、大きな学びを得ることができた。
まず、病院や地域薬局の見学では、日米間での薬剤師業務の違いに驚いた。例えば、ワルファリンや低分子ヘパリンが処方された際に、薬剤師が患者さんの病状や検査値、抗凝固薬と他の薬剤との相互作用等を評価した上で投与量を決定していることを学び、薬剤師が患者さんや他職種からいかに信頼されているかを実感した。外来診察では、糖尿病や喘息等の慢性疾患の患者さんのうち、医師から依頼された患者さんを薬剤師が単独で診察している現場を見学させていただいた。薬学的介入を通して、薬剤師がどのようにチーム医療に貢献できるかを意識するとともに、それを他職種に積極的に示していくことが重要であると感じた。
次に、薬学教育については、日本が研究活動を通して考える力を養うことに重点を置いているのに対し、アメリカでは臨床教育に重点を置いている点が、現在の日米薬学教育の大きな違いの一つであると感じた。日本では、基礎科目の実習や卒業研究がカリキュラムに組み込まれており、学部3~4年次に研究室に配属され、5年次の実務実習期間以外は研究に取り組むことが一般的である。一方、アメリカでは、4年制の薬学教育のカリキュラムに卒業研究が入っていない場合が多く、日本の薬学生のように研究室に配属された上で一つの研究課題に継続的に取り組むシステムはない。その代わりに、臨床で求められる知識・技能・態度を習得することを目的とした、1,600時間に及ぶ病院や薬局での実務実習が組まれている。本研修中に日米間の薬学教育の違いについて意見交換した際、アメリカの先生から「研究にも比重を置く日本の薬学カリキュラムは素晴らしい」との声があった。論文を読み、仮説を立て、得られた結果に対して考察を行い、成果を発表する一連の研究活動は問題解決能力を高めるため、研究者を目指す学生だけでなく薬剤師を目指す学生にも、卒業研究の経験は有意義であると考える。医療現場で問題点を発見・解決し、その成果を世界に発信できる薬剤師を輩出するという点が、日本の薬学教育の強みであると感じた。
アメリカにおける講義の特徴としては、低学年次から臨床を意識した実践的な内容や、症例等を用いたアクティブラーニングが多いと感じた。講義を見学した際には、学生が積極的に意見交換を行っている姿が強く印象に残った。このようなカリキュラムや学生の意識の高さが、一人ひとりのレベルが高く、職域の広い薬剤師の育成に寄与していると考えた。さらに、大学の先生方をはじめ、病院や薬局の薬剤師の方々も非常に熱心に学生の教育に取り組まれていたことから、私も自分が学ぶだけではなく、自身の経験を次世代に共有し、人材を育成していきたいという意識が芽生えた。
最後になりましたが、本研修の機会を与えてくださった高度先導的薬剤師養成プログラムの関係者の先生方に厚く御礼申し上げます。また、終始丁寧なご指導をいただきましたウェイン州立大学の先生方に心より感謝申し上げます。