【報告】 長崎大学 ニューメキシコ大学短期研修プログラム

2023.03.01

【日程】 2023年2月10日~19日

【研修先】アメリカ合衆国ニューメキシコ州 ニューメキシコ大学他 

【参加者】学生3名

【プログラム・研修等の内容】
 ①海外での臨床薬剤師の活躍を見学し,日本との差異を体験することでもって,高度先導的薬剤師の養成に資すること。
②英語によるコミュニケーション能力、異文化に基づく研究・教育の多様性を理解する能力、自ら進んで討議に取り組む主体的な態度などを身に着けることにより、総合的で実践的な英語能力を養うことを目的として実施しているもので、今回で3回目の実施となった。
内容は、UNM薬学部における教育カリキュラムおよび薬剤師およびPharmacist Clinicianの役割に関するセミナー、ペインセンター、UNM病院薬剤部、毒性管理センター訪問、地域の薬局訪問、双方向の研究紹介、Project ECHOへの参加、A-Fib screening eventの体験、講義の聴講、キャンパスツアーなどであった。
参加した学生は、ニューメキシコ州における僻地医療などの医療事情を背景とした薬剤師の重要性の理解やオンラインを活用した医療・教育システム先進的な取り組みなどを通じて、日米の差異を体験した。英語の理解、英語での質問や英語でのプレゼンテーションを通じて、十分に英語でコミュニケーションを取れていた。また、博物館などを訪問し、ニューメキシコの特色・文化にも触れることができた。

【参加した感想】
➀研修を通して、“薬学教育”と“臨床で働く薬剤師の役割”の二つの側面について考えました。
 まず、“薬学教育”に関してです。アメリカの薬学部は大学院のような位置づけであり、高校卒業後まずcollegeで必要単位を取得することで薬学部を受験することが可能になります。入学試験には、collegeでの優秀な成績と面接ではかられる高い人間性が必要とされます。ニューメキシコ大学の薬学部は4年制で、1~3年生で講義を受け、4年生では丸1年を臨床実習にあてています。講義の中では、OTCの授業があることが特徴的であるように感じました。実際に現地の薬局を訪問させて頂いた際にはOTCやサプリメントの数がかなり多い印象で、アメリカでは保険制度の違いから病院に行かず薬局でセルフメディケーションを行うことが多いためOTCの知識が重要とされているのではないかと考えました。また、抗菌薬と対応する菌の種類を全て覚える授業があり、日本ではそこまで詳細に暗記する授業はないため、学生の知識の差がかなり大きいように感じました。3年生では知識を応用する授業があり、複数の合併症のある患者など、複雑な症例に対してどう治療するかを授業で学んでいました。実際の臨床では、複数の疾患を合併した患者を治療することが多いと思うので、臨床と直接結びついた授業を行っていると感じ、さらに4年生の1年間を全て実習に充てることで卒業後すぐに薬剤師として活躍できる人材を育成するカリキュラムであると感じました。また、実際の講義を見学させていただきましたが、学生が自ら進んで発言したり学生同士で話し合ったりしており、日本では考えられない学生の学ぶ姿勢を拝見し刺激を受けました。
 次に“臨床で働く薬剤師の役割”に関してです。現地では3つの薬局とペインセンターを訪問させていただきました。トローチや注射薬などを製造している薬局や、COVID、インフルエンザの予防接種やテストを中心に行っている薬局、患者とのかかわりを重視し年に一度患者と処方薬について見直す時間を設けている薬局など、日本とは異なる薬剤師の仕事内容を知りました。特に現在、薬剤師は将来性がないと言われることが多いですが、これらの薬局のように独自の特徴を持たせたり、対人業務を充実させたりすることで生き残っていくことができるのではないかと考えました。ペインセンターではPharmacist Clinicianの仕事を見学させていただきました。この職種は普通の薬剤師と異なり、疾患がすでに診断されている患者に対して薬の処方・変更や用量の調節などを、医師を通さず行うことのできる専門職です。実際に患者との対話を見学させていただきましたが、疾患について模型や資料を用いて詳しく説明を行い、薬だけでなく生活上のアドバイスも行いながら治療のゴールを相談しており、日本の薬剤師とは全く異なる印象にとても驚きました。さらに、患者を臨床心理士など他の職種に紹介することも可能であり、アメリカでの薬剤師の役割が薬以外にも多岐にわたることを実感しました。
 他にも様々な施設を見学させていただき、アメリカの薬学教育が臨床との結びつきを重視していることや、薬剤師が処方や予防接種など多彩な役割を果たしていることを学びました。一方、アメリカでは一包化やお薬手帳、退院時指導などは一般的ではないようで、世界に誇れる日本の薬剤師業務についても同時に知ることができました。アメリカの優れた点を全て日本に適用することは難しいですが、日本の良い点を伸ばしながら少しずつ取り入れていくことで薬学教育の充実とより良い医療の提供が可能になると考えました。今回学んだことを今後の学生生活や勉強に活かしていきたいと思いました。

➁研修期間中は毎日多くのことを学び、非常に充実した日々を送ることができました。その中で特に印象に残ったことを2つ挙げたいと思います。
1つ目は、臨床に基づいた薬学教育の重要性です。アメリカでは高校卒業後に薬学部に進学するのではなく、プレファーマシースクールで基本的な科目を履修してからファーマシースクールに入ることになります。ファーマシースクールの授業では臨床実習が重視されており、今回見学したUNMでもたくさんの臨床実習がカリキュラムに組まれていました。アメリカの学生は学生時代から臨床で役立つ知識を学んでおり、それがアメリカの薬剤師の職域の広さを支えているのだと思います。これから日本の薬剤師もチーム医療の一員としてより広く活躍することが求められると思いますが、ただ法整備をするだけでは不十分でその基盤にある薬学教育を軽視してはいけないと感じました。
2つ目は、アメリカと日本の保険制度の違いです。アメリカは日本とは違って様々な保険があり、入っている保険によってカバーされる薬も異なります。そのため、薬を選択する時にその薬が患者さんの保険でカバーされるものかを確かめることが重要になります。保険でカバーされないと非常に高額な医療費となるため、必要な薬物治療を続けることが難しいというケースもあるそうです。その点、保険制度に関しては日本の方が優れていると思いました。今後、日本の医療制度は欧米をモデルとして変化していくと予想されますが、ただ諸外国のやり方を踏襲するだけでなく国民の医療ニーズに応えられるような方法を模索していく必要があると感じました。
アメリカで過ごした10日間はとても刺激的で学びの連続でした。スーパーに行くだけでもそこに並んでいるOTC医薬品の日本との違いに驚かされました。

➂今回、このプログラムに参加させて頂いたことで、日本とニューメキシコ州の薬学教育、医療制度の違いなどをこの目で実際に確認する事が出来ました。
まず、薬学教育の違いとして、UNM(The University of New Mexico)は大学院大学であり、4年制であるということです。つまり、薬剤師になるためには大学(3-4年)で必要な単位を取得し、大学院大学に4年間通うため最低でも7年は大学に通わなければならないが、大学で基礎を学んでいるため、大学院大学に入学するとすぐに専門的な分野について学び始めることが出来ます。特に驚いたのが「TOP200」というテストで、頻出の薬200種類に関して、薬剤名、ブランド名、用法・用量、作用、副作用、禁忌などを1年生の間に覚えなければならないという事です。もちろん大学院大学だからできる事ではありますが、日本ではブランド名や用法・用量などに関しては授業ではあまり取り扱わずに現場で身に着けていく印象だったので日本との違いを感じました。また、1年生のうちから覚えていたら学習にとても役立つだろうと思いました。学年が上がるごとにどんどん複雑な症例を取り扱っていき、私が参加させていただいた授業では、2型糖尿病、高血圧、肥満、更年期などの背景を持った患者のtransitions(急性期から慢性期へ、病院から家へなどの変革期)で薬剤師がどんな役割を果たせるか、ということで家から持参した薬と病院で新たに処方された薬を比較して、最適な薬が処方されているか、どんな相互作用が考えられるか、重複はないかなどを学生達が調べていましたが、日本ではここまで複雑な症例を、時間をかけて扱っていくという事があまりないように思えたので、日本でも時間をかけて勉強したいことだと感じました。(もちろん授業時間がアメリカの方が長く、1コマ2時間もあることも関係していると思います。)また、授業では積極的に意見を発言したり、学生が授業を進めたりするなど、学生の授業への態度がとても熱心に見えました。日本では意見を求められても黙ってしまったり、発言する事が恥ずかしいと感じてしまったりする生徒も多いのでないかと思うので、私自身ももっと積極的に授業に参加していきたいと感じました。
次に、ニューメキシコ州と日本の医療制度の違いを考えるうえで最も重要だと感じたのが、保険制度の違いです。日本では保険によって使用できる薬が異なる、といったことはまずないですが、ニューメキシコ州には移民や難民、ホームレスなど様々なバックグランドを持った人が多く、保険制度も複雑なようで、保険のプランによっては保険適用が効かない薬もあり、飲まなければならない薬が高額すぎて購入出来ない、と困り果てる患者も少なくないようでした。そのような患者のためにニューメキシコ大学にある病院では、薬を割引価格で販売することが出来る340Bという薬価設定プログラムが導入されていました。このように保険制度の違いによって医療の制度にも違いが出てくることを知りました。
さらに、病院見学や地域薬局の見学を通して、日本とニューメキシコ州の薬剤師業務の違いに驚きました。ニューメキシコ州ではPharmacist clinicianと呼ばれる、より高度な業務を行える薬剤師がおり、プロトコルに従って処方箋を書いたり、予防接種を打ったり、緊急避妊薬やナロキソンを処方したり、TBテスト、禁煙治療、HIVの曝露後予防なども行えるという事で、実際にPain centerにて、Pharmacist clinician の患者の診察の様子を見せて頂きましたが、医師のように患者の様態や経過を聞き取り、薬の増量を決定し、用法を患者に伝えている姿を見て、まさにこれが授業で習ったCDTMだと感じました。この仕事は非常に訓練が必要で、絶対的な知識と信頼の上で成り立っていると感じました。日本でも薬剤師としてできる事を増やしていくためには信頼と実績を積んでいかなければならず、そのためには私自身、もっともっと勉強して、薬剤師にしか出来ない事、医師に代わって薬剤師にもできる事をどちらもできるように研鑽していくべきだと思いました。
他にも日本との違いに驚いた部分はたくさんありましたが、その中でも日本が誇れると思ったものが「おくすり手帳」です。おくすり手帳のような、患者が他の薬局で処方されている薬を他の薬局が知ることが出来る手段はニューメキシコ州にはないようで(オピオイドは別)、日本にはせっかくおくすり手帳があるのだからしっかり活用していくべきだと感じました。
最後に、実務実習(薬局実習)前にこのような貴重な経験をさせて頂き、本当に良かったと感じております。これから薬学生として成長していく糧となり、どのような薬剤師になりたいかという事について考える大きなきっかけとなりました。

UNMCOP

Compounding Pharmacy

A-Fib Screening