【報告】岡山大学 海外研修プログラム(フィリピン共和国)

2019.10.16

日程:
2019年9月8日~2019年9月13日(実質4日間)

研修先:
フィリピン共和国、セブ市(University of San Carlos、Perpetual Succour Hospital、および市内薬局3件(Rose Pharmacy、Watson’s、MedExpress)

参加者:
岡山大学 薬学部 教員:2名(教授および助教)
岡山大学 薬学部 学生:4名(博士後期課程1学年1名および6学年3名)
徳島大学 薬学部 学生:1名(6学年1名)

概要:
本研修プログラムでは、途上国での薬学教育・薬剤師業務の高度化に貢献できる国際性に富んだ高度先導的薬剤師の養成を目標として掲げ、昨年度に引き続きフィリピン共和国University of San Carlos(USC)を拠点とし、同市内中核病院であるPerpetual Succour Hospital(PSH)、および同国内の代表的大規模チェーン薬局(Rose Pharmacy、Watson’sおよびMedExpress)の見学など、実質4日間の研修を実施した。岡山大学とUSCは大学間協定を締結しており、これまでも教員および学生の交流を実践してきている。今年度は、特に本研修を徳島大学と共同で開催し、またプログラム内容も昨年度の内容から更に充実を図り、参加学生はUSC内で1.5日間の講義を受講し、PSHでは病棟業務、市内薬局ではオンライン処方などを含む各業務の細部までを見学した。また、研修の中では帯同教員による講演会を開催し、日本国とフィリピン国における薬学教育・研究および臨床業務の相違点について活発に議論し、さらに研修の最終日には参加学生による英語でのプレゼンテーションを実施した。なお、次年度以降も双方向的な研修の実施・継続のため、本年10月にはUSCから6名を岡山大学に招聘し、本学および附属病院での薬学教育・臨床・研究の見学・参加、学生間交流を含む7日間の研修プログラムを実施する予定である。

実施した感想:
USCはフィリピン国内でもトップレベルの薬学専門教育を実施しており、薬剤師国家試験合格率は比国で常に1位である。特に学生が自発的に講義に参加する姿が特徴的であり、これは教員のハイレベルな講義スキルに加えて、学生自身が医療人となることに対する強い自覚を有していることが理由として考えられる。参加学生は本研修を通じて、自身の英語能力を改善すること、さらには学びに対する姿勢を改める必要性を強く感じていた。今後も本研修プログラムを継続し、参加型研修に加えて帯同教員の知識・技術の伝達も視野に入れ、本研修プログラムの目的である先導的な薬剤師の養成に繋げることを目指したい。

参加学生の感想:
①私は本研修プログラムを通して、多くのことを学び、そして良い刺激を受けました。セブで見学させていただいた病院の薬剤師の業務は大きく病棟業務・外来患者調剤・入院患者調剤および抗がん治療の4つに分けられました。薬剤師業務の面では大きな違いは感じませんでしたが、セブでの抗がん剤調剤には資格が必要ないという点で日本と違いがあり、驚きました。薬局見学では、日本の調剤併設ドラッグストアのような店舗が多く、調剤のみの店舗は少ないと感じました。アメリカも調剤薬局よりも調剤併設ドラッグストアが多いので、いずれ日本も調剤併設ドラッグストアが主流になるのではないかと考えさせられました。サン・カルロス大学の学生は、真面目で、前向きで、明るくて、尊敬できる人柄の学生ばかりで感動しました。英語力の面では力不足を感じましたが、英語でコミュニケーションをとれる喜びや大切さも実感出来ました。本研修で得た考えや刺激を今後の糧にして、活躍できる薬剤師になりたいと思います。

②【明るく親切な国民性に元気をもらった】
街中でも学校でもとにかく明るいです。掃除のおばちゃんはいきなり歌い出し、隣になった学生は目をキラキラさせて私たちを質問攻めにしました。”Filipino is always happy, smile!”という現地のガイドさんの言葉が印象的でした。
【文化が異なるからこそ粘り強いやりとりが大切】
日本の薬学生は就職先を決めてから国家試験を受けます。でもこの仕組みがなかなか伝わりませんでした。フィリピンでは卒業→国試→合格→仕事探しという順番だそうです。たしかに免許がないうちに仕事を決めることは腑に落ちにくいのかもしれません。言葉の壁と背景の違い、2つのバリアを意識した瞬間でした。自分の話に相手が不思議そうな顔をしていたら質問を促したり、私も分かったふりの頷きは絶対にやめようと思いました。
【集団行動に備えてリスニングを鍛えたい】
一対一の会話なら聞き直しやすいですが、授業など一対多数だとそうもいきません。一度話の筋を見失うとたちまち迷子になってしまいます。知っている単語でもrを含んだりアクセントが分からないと聞き取れません。英語を勉強する大きな動機をもらいました。

③今回も参加させていただいたのですが、前回同様Perpetual Succor Hospital はとても設備が充実している病院であると感じました。手書きの処方箋が多いことは把握していたのですが、今回病院見学させてもらい、まだ日本の電子カルテとまでは言いませんが、薬剤師がパソコンに処方薬など打ち込んでいるところを見ると少しずつデータの管理についてアナログからデジタルに変化してきているように感じました。
デジタルへの変化は薬局でも少しずつ起きており、Onlineの処方箋受付などが一部の薬局で行われていました。これも今回自分が驚いたことの1つです。
今後フィリピンでもデジタル化が進み、様々なデータが集まることで相互作用や治療における問題点なども見えてくると思うので、このデジタル化を生かすことができれば、薬剤師の地位も少しは上がるように感じました。

④USC学生の積極的に勉強に取り組む姿勢が最も印象深かった。USCの授業では、先生の質問に対して学生たち皆が“我こそは”と返答し、学生の発表に対しても必ず皆でリアクションを示していた。日本の「教師から生徒への一方向の授業」とは大きく異なり、授業の雰囲気も賑やかで、皆が勉強を楽しんでいる印象をうけた。日本の学生も彼らのように、積極的に授業に参加し、勉強を素直に楽しむことが出来ると授業内容が頭に入りやすく、知的好奇心も自然と湧いてくるのではないかと感じた。
 PSH訪問では、フィリピンでも日本と同様、薬剤師の分業が進んでいることを知った(がんに特化した薬剤師、病棟薬剤師など)。また、岡山大学病院における実習で目にしたほとんどの部署と同じ役割の部屋が備わっており、あくまで私が見学した薬剤部を中心としたごく一部を見た感想ではあるが、日本の先進医療施設とそれほど大きな差はないように感じた。ただ、病棟に配置されている医療従事者の数は日本の方が多く感じられ、日本の医療がいかに手厚いものであるかを再認識し、それとともに、人数の多さに見合った手厚い医療が提供出来ているのかどうかを見直す必要があると考えた。

⑤1、フィリピンの薬学部は4年制であり、卒業後に国家試験を受験する点が日本の薬学部と大きく違う点であった。また、薬学部卒業後にClinical Pharmacyコースに進学することも可能である。卒業後は主に薬局に就職をするケースが多く、これは徳島大学と同じである。学生の中には、「薬局では薬をただ渡しているだけの薬剤師が多いが、自分はそうではなくて患者さんとよく話をしてもっと治療に介入したい」と話す学生もおり、意識の高さに感激することもあった。また、講義においては積極的に発言したり、クラス全体でディスカッションしたりする雰囲気があり、日本の授業とは異なり和気藹々としていた。
2、病院での薬剤師の役割は日本と大きく変わらないことに驚いた。ただし、日本と比較して人手不足であるようだ。薬局ではOTC医薬品がカウンターを隔てて患者の手の届かないところに配置されており、日本もこのスタイルを取り入れるべきだと感じた。薬剤師がアセスメントを行い、薬を選ぶことによって初めて薬剤師の存在価値があると思う。
3、ボホール島では、フィリピンの自然に触れたり、バンブーダンスを体験したりしてフィリピンの風土や文化について理解を深めることができた。
6日間、USCの学生や先生方の温かな人柄に囲まれ、充実した日々を送ることが出来た。英語を使うことにはじめは抵抗があった私も、たくさん話をしているうちに少しずつ会話ができるようになり、とても嬉しかった。同時に英語をもっと勉強すべきであるとも感じた。笑顔が素敵で前向きで明るいフィリピン人の国民性からは学ぶ部分が多い。今回のこの貴重な経験を忘れず、今後に繋げていきたい。

Perpetual Succour Hospitalの皆さんと.JPG

USCの皆さんと.JPG

USC学長表敬.JPG