【報告】京都大学 学生自主学修プログラム in 香港

2019.04.01

日程:
2019年1月27日(日)~1月31日(木)

研修先:
香港中文大学薬学部

概要:
グローバルな視野を持ち国際的に活躍する薬剤師には、各国の医療制度や社会構造の違いに応じた職能の違いを理解し、適した医療サービスを提供できる問題発見・解決能力を身につけることが要求される。香港は長寿世界一の都市で医療福祉が充実しており、比較的日本と似た医療環境であるものの、日本のように皆保険制度は存在しないといった社会保障制度の違いも見られ、薬剤師の職能や医療制度を比較して学ぶのに適している。
今年度は国公立17大学に一般公募を行い、北海道大学より学生1名、富山大学より教員1名、学生2名、京都大学より教員1名、学生2名が参加した。スケジュールは以下の通り。

1月28日
午前 キャンパスツアー
午後 HK Pharmaceutical Care Foundation・地域薬局の訪問
1月29日
午前 ミニレクチャー(Joan Zuo薬学部長)
   学生プレゼンテーション(第1部)
午後 実習生症例発表会参加、病院見学(Prince of Wales Hospital)
1月30日
午前 Institute of Integrative Medicine訪問
午後 学生プレゼンテーション(第2部)
   CUHK卒業生による卒後インターンシップ紹介

開催した感想:
香港の医療環境およびその中での薬剤師の役割、薬学教育について学び、日本と比較しながら両国の制度等の良し悪しを考える非常に良い機会となった。また今回は、香港中文大学の先生方から学生たちに対して事前に発表課題が提示され、日本の薬剤師を取り巻く環境や薬学教育について発表する機会があった。緊張した面持ちであったが、質疑応答も含め内容をうまくまとめて説明していたのが印象的であった。

参加者の感想:
①香港の町並みは日本と似ているところが多かったため、医療の実態も日本とあまり変わらないのではないかと想像していたのですが、実際はかなり違うところが多く非常に驚きの連続でした。特に驚いたのは、日本では個人の診療所・市立などの病院ともに院外処方が一般的ですが、香港では政府の医療機関(一般的に私立の診療所よりこちらを利用することが多いとのこと)の場合、基本的な薬は院内処方で、新薬や高価な薬の場合のみ院外のドラッグストアなどに行くということです。そのため、病院で見学させていただいた薬剤部には長蛇の列ができ非常に忙しそうで、個人個人に服薬指導をする時間は無いためワルファリンなど特に注意が必要な薬のみ別で説明会を行うとのことでした。日本では必ず各薬剤について服薬指導するのが薬剤師の義務なので、本当に説明しなくて大丈夫なのかなと思ってしまいましたが、薬剤師の数が2500人余りしかいないという香港では、これが最善の策なのかなと感じました。その他にも漢方と西洋医療を統合させた診療科など、香港ならではの施設も見学できましたし、実際病院実習中の薬学部の学生さんたちの症例検討会に参加させていただいた時は、私自身が病院実習の症例検討会でやっていたような検査値のチェックや処方薬の妥当性チェックなどを行っていて、実習の内容は似ているのかな、と共通点を見つけることもできました。各医療施設の見学を経て、非常に多くのことを知り、日本と香港の違いやそれぞれの国が持つ問題点などについて考えることができたのはもちろん、現地の先生や学生さんとたくさんお話できたのも非常に良い経験でした。あまり英会話に自信はなかったのですが、文法などが少しおかしくなっても、香港の方々がすごく一生懸命聞いて理解してくれようとしてくださったので、私も臆することなく会話でき、本当に良かったです。3日間という短い期間の研修でしたが、たくさんの知識と広い視点、そして英会話に対する自信もつけられたように思います。今回の研修に参加できて本当に良かったです。

②今回の研修では、香港の医療制度と日本の医療制度を見比べて、日本のほうが優れている点と日本に足りない点の両方を知ることができた。
医薬分業という観点では日本のほうが大きく進んでいるのではないかと感じた。香港ではほとんどの薬を病院で受け取る仕組みとなっており、薬を受け取るために多くの患者が長時間待ち続けていた。また、一包化などの個別の対応も十分ではないようだった。日本でも医薬分業に関して賛否はあるが、利便性や薬物療法の質の向上のためには医薬分業は不可欠であると思った。
薬剤師の職務や権限については、日本が見習うべき点もあると感じた。市中のドラッグストアでは、訪れた人が薬剤師に症状を相談し、薬剤師が症状にあった薬を選んで販売するという形態が定着していた。日本でも薬剤師がセルフメディケーションにもっと積極的に関わることで、健康増進に寄与することができるのではないかと考えた。
病院ではPharmacist Clinicという制度があると聞いた。例えばワルファリンを服用している患者について、PT-INRの値をもとに薬剤師が投与量を決めるというもので、患者は医師の診察を受けることなく薬を受け取ることができるそうだ。薬剤師の処方権やリフィル処方箋について日本でも議論されているが、香港のこの制度は大いに参考になるのではないかと思った。
以上、今回の研修では大変貴重な経験ができたと思う。

③3日間の研修を通して、香港における薬学教育や病院・薬局での薬剤師の職能など日本との類似点や相違点を多く学ぶことができた。香港の薬学教育は4年制でその後インターンシップとして施設で研修を受ける制度であることを知った。授業の内容としては似ている部分も多いと感じた。チェーンドラッグストアの訪問では、品揃えは日本と大きくは変わらず、日本製品も多く販売していることを知った。また、客が簡単に手に取れない棚には薬剤師がいないと販売できない医薬品が置かれており日本と類似していた。一方で、処方箋がなくても薬剤師が患者の症状から判断して薬を販売していた。病院の薬局では患者が外まで並んで待っており、一人ずつ十分な服薬指導をすることは難しいことを知った。使用している調剤機器は日本製品もあったが、一包化などは非営利団体などが委託されて行っていることを学んだ。私にとって海外渡航は初めてであったため、大変多くの刺激を受け良い経験をさせていただいた。

④今回研修に参加するにあたって、あらかじめ日本と香港の薬学制度を比較してみようと考え、インターネットにて事前調査を行っていた。教育期間や薬剤師国家試験の制度など相違点が非常に多く、なぜ同じアジアでもこのように異なっているのかと疑問に感じていた。
研修に参加して、実際に医療現場や薬学生の実習を見学するなどし、大きな違いとして感じたのが薬剤師総数の違いであった。香港には薬学の教育期間が香港中文大学と香港大学の2大学のみであり、これらの大学を卒業して新たに薬剤師となるのは1年あたり70人程度であると伺った。日本には現在私立の薬科大学も非常に多く、国家試験合格者は1年あたり1万人を超える。結果、国単位の薬剤師数に大きな差が生じているように思われた。訪問した薬局や大学で薬剤師数に関する話題になると、日本における薬剤師の数に対して非常に驚かれることが多々あり、香港では薬剤師の数が少ないことが当たり前となっていることが見受けられた。
日本ではいずれ薬剤師の供給が需要を上回る可能性もあると言われ続けているが、薬剤師免許を持ちながら薬剤師以外の職に就く人もいること、および女性薬剤師の割合が多いこともあり、現在のところ過剰にまでは至っていないようである。将来的に過剰になることを見越して、例えば調剤薬局薬剤師としての職務内容は薬局内から在宅へとシフトするなど、薬剤師の職能も時代と共に移り変わっていく必要がある。一方、香港では先述の通り、テクニシャン制度による作業効率化や、服薬指導の必要な患者・医薬品を限定することによる効率化など、薬剤師の不足を補う制度が機能している。服薬指導を受けられる人が限られている問題に関しては、今後薬剤師の数が増えていけば徐々に解消されていくように思われる。しかしそれは同時に、薬剤師の増加に合わせて職務内容を見直し、サービスの充実化をはかっていく必要があるという意味でもある。いずれの国の場合においても共通しているのは、今薬剤師に求められているのが変化に対応する能力だということである。
香港の学生と話した際に、大学で今現在何をしているのかという話題になったことがあった。3年次末から研究室に配属され、細胞を相手に研究を行っていると答えると、香港の大学はあまり研究教育に重きが置かれていないように感じると香港の学生は言っていた。大学での教育期間の長さを考慮しても、研究に触れることが出来る期間は日本の大学の方が長いだろう。大学での研究活動を通して深く身についた知識も様々あると自覚しており、その点では日本の薬学教育の恩恵を受けることが出来ているのではないかと感じている。当たり前に感じていたことが、一歩海外へ出向いてみれば実は当たり前ではなかったということに気付くことができ、非常に貴重な体験であったと感じている。

⑤香港では、国内での薬剤師育成カリキュラムが設立されたのが比較的最近であり、それ以前は、国外で薬剤師免許を取得後、香港での試験をパスした者は香港内で薬剤師として勤務できるシステムが存在するため、国外で薬剤師免許を取得したものも多く、英語が堪能な薬剤師が多いように感じられた。加えて、薬学部の講義は英語で行われているものがほとんどで、英語力が高く、国外からの観光客への対応力の高さが改めて感じられた。
 一方で、日本では当たり前になっている多剤併用患者への一包化や、薬剤師から医師への処方提案は遅れいている部分もあり、香港の薬剤師の課題も垣間見れた。また、中国医学と西洋医学の融合的な診療を行う部門もあり、香港の医療の特徴的な部分も学ぶことができた。

香港中文大学学生と一緒に.jpg

HK Pharmaceutical Care Foundationにて.jpg

香港中文大学薬学部にて.jpg

Prince of Wales Hospitalにて.JPG

Institute of Integrative Medicineにて.JPG

学生プレゼンテーションの様子.jpg